遠い昔の夏と冬  その④

当時、私は親や兄弟に対して心と閉ざしていたので、親父は唯一の心を開いた存在であった。
その後、しばらくして『体を壊したので、店をたたんで療養する』と言ったっきり音信不通となった。



その後、このことを思い出したり、話したりすることは何度かあったが、深く思い出すことは無かった。
この時の悲しみを手放せてはいなかったからだと思う。
今になって、ようやくそれを乗り越えることができたのではないかと思っている。
時間が、深い悲しみをようやく解決してくれたのだろうと思うのである。


古代インドの話だったと思う。
この世で最初の人類はヤマとヤミーと言う男女の双子であった。
その二人から多くの子供が生まれて今に至るそうである。

ヤマとヤミーは幸せに暮らしていたが、ある日ヤマが死んだ。
ヤマは、人類で最初の死者となり、その後の人間に死後の道を開いて冥界の王となったそうである(実は『閻魔』のこと)。
ヤマの死後、ヤミーの悲しみは深く、『今日ヤマが死んでしまった・・・』と嘆き続けていた。
それを憐れに思った神々は、地上に夜を作った。
夜が明けると『昨日ヤマが死んでしまった』、次の夜が明けると『一昨日ヤマが死んでしまった』、次第にヤマの死がヤミーにとって過去のものとなって行った。
ヤミーの心にはヤマを喪った悲しみは消えることはなったが、身を削るような激しい悲しみは去って行ったと言う。



遠い昔、ヤミーの心を救った神々の慈悲は私の心も救ってくれたようである。

<完>
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遠い昔の夏と冬  その③

あの子にとっても、思い出がたくさんある場所でもある

そんなことを言ってたのを、その時はさほど印象にとどめてはいなかった。



まだ寒い春のある日、雑貨店の親父から電話があった。

店に来てほしい。話さなければならないことがある。

何の頃かわからず、バイクを飛ばして店に行ってみると親父が一人で座っていた。
『娘が、バイク事故で死んだ・・・』
俯いて、それだけ言った。

『娘って・・・?』
『麻里子』

その後の記憶はほとんど無い。
かなりの時間、そこで立ったまま泣いていたこと、泣きながらバイクで帰ったこと。
それぐらいしか覚えていない。

その後の何年かは、麻里子が居なくなった悲しみと向き合うことが怖くて、ゆっくりものを考える時間ができることが怖くて、とにかく目の前の物事に没頭して過ごした。ハンドボール、勉強、親がやっていた新興宗教にすら没頭した。
そうでもしなければ心が壊れそうであった。

1年経ち、2年が過ぎる頃にはようやく落ち着いていたが、麻里子のことを思い出すと悲しかった。
ときどき、雑貨店の親父と電話で話すことはあった。
親父は若い頃、家族の反対を振り切って家を飛び出して今の仕事を始めたそうである。
麻里子が死んだあと、天涯孤独の身であったそうである。
私を自分の孤独に引き込みたくないと、私には電話をするなと言っていた。
当時、私は親や兄弟に対して心と閉ざしていたので、親父は唯一の心を開いた存在であった。
その後、しばらくして『体を壊したので、店をたたんで療養する』と言ったっきり音信不通となった。


<続く>

遠い昔の夏と冬  その②

夏が終わり、バイトが終わった後も、休日に都合が合えばよく会っていた。
ある日、神戸の片隅にある小さな輸入雑貨店に連れて行かれた。



そこは、麻里子の好きな店で、小さな頃から知っている店であった。
次第に、その店で過ごす時間が長くなり、その店の親父とも親しくなった。
昔、生まれてすぐに息子さんを亡くしたそうで、『息子が大きくなって帰ってきたようだ』と言うこともあった。

次の夏は、麻里子はその店でアルバイトを始めたために、甲子園球場には来なかった。
流石に、バイト帰りの汗臭い汚い格好であの店に行くことは無かったが、休みの日にはよく遊びに行った。

その店の親父は貿易商で、その店は仕事の片手間に半ば趣味でやっているということであった。
そういえば、滅多に客がくることは無かったが、納得であった。
ある日、親父が語ったところによると、その店は親父の奥さんの店で、数年前に奥さんが亡くなってからも手放せずにいて、仕事の傍らで維持してきたそうである。
そろそろ、店をたたもうと思っていたところに麻里子と私が来て、もう少し続けていこうと思ったそうである。

あの子にとっても、思い出がたくさんある場所でもある

そんなことを言ってたのを、その時はさほど印象にとどめてはいなかった。

<続く>

遠い昔の夏と冬  その①

この時期になると思い出す人がいる。

学生の頃、夏はいつも甲子園球場でかき氷の売り子のアルバイトをしていた。
そこで知り合った女の子がいて、すごく気が合うので、バイトが休みの日によく神戸あたりで会っていた。
二人とも50ccバイクに乗っていたので、それで行ける範囲でいろんなところに行った。
たぶん『付き合っている』と言うことになっていたのだろうと思う。

高専の1年だったから、15歳(私は早生まれなのである)の時だと思う。
兄がバイト先に紹介してくれてそこでバイトすることになったのである。
そこは甲子園球場でかき氷を売っている業者で、そこで売り子のバイトをすることになった。
私はトレーニングも兼ねていたので、かなりの数を捌いたと思う。
ほぼ毎日、売り上げのトップ3の賞金をもらっていた。
その結果、毎年夏が近づくと店から電話がかかって来るので、卒業までの5回の夏はそこで働いていた。

最初はプロ野球のナイターで、彼女と出会ったのはその時であった。
店の中でかき氷を作る仕事をしていて、あまり接点は無かった。
ときどき目が合うと笑いかけてくれて、気になる存在であった。
高校野球が始まると、彼女は店には居なかった。
残念に思っていると、後ろから声をかけられた。

今日から売り子をすることにしてん

彼女が友達二人と一緒に売り子のユニフォームを着て笑っていた。
初めて聞いた彼女の声であった。
名前は麻里子と言うそうだ(奇しくも、来世で深くかかわる人と同じ名前;過去記事参照)。
その日から、仕事の合間に一緒に一休みしたり、昼飯を一緒に食べたりして親しくなった。
ときどき、神戸あたりで待ち合わせて遊びに行くようになった。
夏が終わり、バイトが終わった後も、休日に都合が合えばよく会っていた。
ある日、神戸の片隅にある小さな輸入雑貨店に連れて行かれた。

<続く>

風の声を聞く男⑥  たぶん最終回

今日の昼過ぎに、続きが浮かんできた。
早く出してほしいと言わんばかりに頭の中で飛び回っていたようであるが、あいにく今日は8時前まで仕事をしていた。
風呂に入り、ロッドの依頼鑑定を済ました後、ようやく晩飯ができた。
今食べながら書いている。
行儀が悪いのだが、食べ終わるまで待ってくれそうにない。

風の声を聞く男の夢はこれで終わりのようだ。
だがわかるのは、彼がシャーマンを受け継いだ後、戦に長けた部族に滅ぼされる運命にある。
シャーマンから受け継いだ力によって、侵入者の気配を感じたのだが、風の声に異常はなかった。
明日まで様子を見ようと思ったその夜に攻め込まれたのである。
巧みに風下に回られたためである。
風の声を聞く男の耳は、異能の力と言ってもよいほどのものである。
異能の力を持つ者は、どうしてもその力に頼る癖がついてしまう。
そしてその結果、部族は根絶やしにされた。
そして、これは神の長が決めたことである。

そんな内容のことが頭に浮かび、あの日の夢に立ち返った。
あの、深い喪失感とともに目覚めた夢に・・・・・

私は光あふれる部屋の中に立ち、私と向き合っている。
正確には上位の私と向き合っていたのであり、まわりが光に満ちていると見えたのは私の次元よりも高いものばかりで光にしか見えないということらしい。
上位の私は、風の声を聞く男の世界では『神の長』と呼ばれている。
先ほどから上位の私がやっているのはRPGのようなもので、そこには風の声を聞く男の世界があった。
上位の私は、風の声を聞く男の行動について、『風の声に異常がないことから、一日様子を見る』と言う選択をした。

なぜその選択をするのだ!?
部族の皆とは永久に会えなくなるというのに!
なぜ? なぜ? なぜ? ・・・



あの日、ここで目が覚めた。
でも続きがあったのを全く覚えていなかった。
あるいは改めて今日の明け方に続きとともにもう一度見たのかもしれない。

・・・ なぜ?


上位の私が言った。
『何度も生まれて何度も死に、すべてを身に着けた時、お前や部族の皆の魂は一つになる。物質界の尺度では永遠に感じるかもしれないが、永遠ではない』

『部族の守護神は大地に姿を変えると同時にその魂を解き放ち、部族の者たちの魂とともに長い旅に出る。もう一度一つになるまで、部族の者たちを見守り続ける』

『守護神の魂を解き放つ役割を与えられるものは、人一倍強い魂でなければならない。その悲しみや苦しみで粉々になってしまわないために』

『お前の魂はようやくそこまで育った。でも予想以上に部族を失った悲しみが深く食い込んでいる。手放すのだ。お前が手放さない限り、その悲しみはお前を苛む。お前と同じ部族にいたものも少しだがさいなまれる。』


この世界には、遠い過去に離れ離れになってしまった部族の者たちの、無数の魂に満ちているのかもしれない。
わからないだけで、見えないだけで、気付かないままに仲間に囲まれているのかもしれない。
そして、いつの日か・・・。
プロフィール

一夢庵(M2)不便斎

Author:一夢庵(M2)不便斎
私の目の前の世界は、私が生まれてきた時に私に贈られたものである。
あなたもかつて世界を贈られたからこそ生きているのである。

私の世界は私が作り動かして行くのである。
私の世界の操縦桿を握るのは私だけ。

あなたの世界は?

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